割れた空の向こうから v2
たびしずく たびしずく
169 subscribers
206 views
11

 Published On Oct 2, 2024

リク:日常に退屈を感じているが、それが「幸せ」だと思い込んでいる少年。好奇心が強く、謎めいたセイラに惹かれていく。

セイラ:ひび割れた空の中から現れる謎の女性。本当の世界からリクを助け出すためにやってきた。彼女には世界の真実と、かつての壮絶な過去が隠されている。

-----------------------------------------
平和のひび割れ

リクは、平和な日々を当たり前のように過ごしていた。青い空、優しい家族、いつも変わらない街の風景。しかし、そんな彼の日常に、小さなひびが入る出来事が起こった。それは、ある日の午後のこと。リクは学校からの帰り道で何気なく空を見上げた。

「……え?」

空にひび割れが走っていた。まるでガラスが割れるように、空の真ん中に不自然な線が現れたのだ。その奥には、何かがちらりと見えた気がした。人の顔……?いや、それは幻覚だろうか。リクは何度も目をこすった。しかし、次の瞬間には、いつもの青空が広がっているだけだった。

「なんだったんだ、今の……」

気のせいだと言い聞かせて、リクは帰りの道を急いだ。しかし、それからというもの、リクは空のひび割れを見ることが増えていった。学校の帰り道、友達と遊んでいる最中、寝る前のベッドの中。空にひびが入る。そして、その向こうに何かが覗いている。だが、見つめ直すと何もない。周りの誰もそのことに気づいていないようで、リクは次第にその現象に対して不安を抱き始めた。

ある日、彼は再び空にひびを見た。そのひびから、はっきりと女性の顔がこちらを見ていたのだ。彼女は美しく、どこか悲しげな表情をしていた。しかし、リクが何かを言おうとした瞬間、空はまた元通りになってしまった。


---

そんな奇妙な出来事が続く中、リクは次第に周りの人々に違和感を覚えるようになっていった。友人の笑い声、家族の優しさ、街の温もり――それらはすべて彼にとってどこか作り物のように感じられ始めた。まるで、見えない舞台の上で演じられているかのようだった。

そして、その日がやってきた。

リクの部屋の窓をノックする音がした。ふと振り返ると、あのひび割れの向こうに見えた女性が立っていた。彼女はリクの部屋の中に立っていたのだ。

「……君は、誰?」

リクの声に女性は微笑んだ。そして、静かに口を開いた。

「私はセイラ。この世界は偽物よ、リク。」

その言葉にリクは混乱した。偽物?何を言っているのか理解できなかった。彼女は続ける。

「この世界は、かつての大きな災厄から人々を守るために作られた仮想世界。本当の世界は、もっと荒れ果てている。でも、ここに閉じ込められている人々は、真実を知らずに平和を享受しているの。」

リクは目を見開いた。彼女の言葉が頭の中で渦巻き、理解が追いつかない。

「じゃあ、この世界は……僕たちの生きている世界は偽物だっていうの?」

セイラは静かにうなずいた。その眼差しには確かな真実が宿っていた。リクはその場に立ち尽くし、何も言えなかった。彼の心の中で何かが崩れていくのを感じたのだ。


---

それからの日々、リクの中では葛藤が始まった。セイラの言葉を信じるべきか、それともこの平和な日常を受け入れるべきか。リクの周りの人々は相変わらず何事もなかったかのように過ごしている。しかし、リクにはもうその平和が作り物であるかのように感じられてしまうのだった。

セイラは時折リクの前に現れては、彼に真実を見つける手助けをしようとした。しかし、リクはまだ心を決められない。彼女の語る真実があまりにも衝撃的であり、もしそれが本当なら、自分が今まで信じてきたものがすべて崩れてしまうからだ。

だが、次第にリクはこの世界の異変に気づき始める。空に走るひび割れは日に日に増え、リクだけがそれを目撃するたびに、周囲の人々が不自然にその事実を無視していることに気づいたのだ。そして、ついにリクはセイラに向き合う決意をする。


---

「僕は……本当の世界を知りたい。たとえ、それがどんなに恐ろしいものであっても。」

リクの言葉にセイラは微笑んだ。それは悲しさと喜びが入り混じった表情だった。

「ならば、リク。あなたと共に真実の世界を探しましょう。」

セイラの手を取り、リクはこの偽りの世界を抜け出すための旅に出ることを決意した。それは、彼がこれまで感じたことのない冒険の始まりだった。そして同時に、自分自身と世界の真実に向き合うための戦いの始まりでもあった。

リクとセイラの旅は、平和の裏に隠された真実を暴き出し、この世界の偽りを解き明かすためのものだった。彼らがどんな結末にたどり着くのか、それはまだ誰にもわからない。しかし、リクは一歩を踏み出した。その一歩こそが、彼の未来を変える最初の一歩だった。

show more

Share/Embed