『試練の御廟』

その男が勢いよく鈴緒を振ると、唐突に世界が暗転した────。　　　


荘厳さで満たされた神祠。
長く伸びた石段の参道を抜けると、眩い本殿が姿をあらわす。

古びた経典の立て札、銀灰に反射する本坪鈴の音。まばらに賑わう境内。
「強念を込め鈴を鳴らさば、気まぐれに神が応える」との風聞に、願掛けに訪れる者も多い。

その神との邂逅は、ある者は恐怖に駆られ、ある者は感動に震えると言われていた………



重厚な香木の匂いが鼻を掠め、意識が浮上する。
男は困惑と期待が入り交じつつ、神前に招かれたのだと理解するのに、そう長くは掛からなかった。

金朱色の灯りが満ちる空間で、体躯の良い多腕像が中央に鎮座している。
神像の瞳が心の奥を見透かすかのように男を捉えると、口角をあげニヤリと不適な笑みを浮かべた。

「……汝の願いは何か？」

脳内で低く反芻するその問いに、男は運命の岐路に立たされていることを悟るのだった────。



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